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Case Study|導入事例

三菱ガス化学株式会社

三菱ガス化学株式会社

圧倒的なスピードと再現性の高さで、別次元の業務が行えるAFM

社会と分かち合える価値の創造をミッションに掲げ、オリジナリティある製品と技術で社会課題の解決に貢献する三菱ガス化学株式会社。同社の平塚研究所では、高分子材料の開発と応用技術を中心に、高機能新規ポリマーの開発や既存製品の用途開発およびテクニカルサービスなど、基礎研究、新製品開発、用途開発、そして技術支援まで、幅広い研究開発を行っています。

機能性樹脂、接着剤・塗料、包装材料、高耐熱フィルム等多岐にわたる研究テーマに取り組む平塚研究所のうち、分析業務を通じて製品の開発研究・製造・営業活動を支援する分析グループでは、2023年3月にオックスフォード・インストゥルメンツの原子間力顕微鏡「Jupiter XR(ジュピター エックスアール)」を導入しました。Jupiter XRについて、三菱ガス化学株式会社 分析グループ 平塚分析チームの金子氏と福島氏にお話を伺いました。

(敬称略)

三菱ガス化学株式会社 金子 直樹

三菱ガス化学株式会社
知的基盤センター 
分析グループ 主任研究員

金子 直樹(かねこ なおき)

三菱ガス化学株式会社 福島 卓弥

三菱ガス化学株式会社
知的基盤センター 
分析グループ 研究員

福島 卓弥(ふくしま たくや)


三菱ガス化学株式会社 平塚研究所
https://www.mgc.co.jp/

【導入製品】大型試料対応原子間力顕微鏡「Jupiter XR(ジュピター エックスアール)
【導入時期】2023年3月
【導入台数】1台
【導入前の課題】樹脂の分散状態の可視化、および機能性樹脂の表面状態や表面処理後のSiウェハ等の迅速かつ正確な観察
【導入後のメリット】弾性率マッピングにより、樹脂の分散状態の可視化や、樹脂の物性変化の判断も併せて行えるようになった。また、再現性の高い表面観察情報が非常に短い時間で得られるようになった。

導入事例 「三菱ガス化学株式会社」 インタビュー
(フルバージョン)

導入事例 「三菱ガス化学株式会社」 インタビュー
(ショートバージョン)

オックスフォード・インストゥルメンツのAFMを導入する前は、どのような課題をお持ちでしたか?

【金子 氏】 私たちの所属する平塚分析チームでは、弊社で開発・製造しているさまざまなサンプルを分析しており、特に樹脂の解析を多数実施しています。樹脂の物性評価法の一つに分散状態の観察があります。これまで、主に光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて樹脂の微細構造やブレンド状態などを観察していましたが、樹脂の種類によっては顕微鏡では観察できないサンプルもあり、新たな分析手法を模索していました。また、電子顕微鏡による分散状態の観察では、弾性率や粘性、凝着力といった物理的な特徴は分からないので、これらのミクロの物理情報を得ることができれば、素材の物性発現のメカニズムが明確になり、素材開発に活用できるのではないかと考えていました。

顕微鏡に代わる分析方法について調査を進める中で、AFMによる弾性率や凝着力のマッピングが有効であると感じました。弊社では、旧式のAFMを所有していましたが、測定スピードが遅く、さらに長時間の測定では、測定開始直後と終了時で観察像が異なる場合もありました。このため、最新のAFMに更新したとしても、どの程度、研究開発に役立つのか半信半疑な面もありました。

平塚研究所(写真左)、三菱ガス化学の事業・製品・研究開発を紹介したパネルやディスプレイ(写真中央と右)

当社のAFMを知ったきっかけは何でしょうか?

【金子 氏】 樹脂の分散状態の評価にAFMが有効だと判明しましたので、社外のセミナーを多数受講し始めました。AFMを用いた弾性率マッピングに関する分野で、非常に有名な大学の先生が講師を務めるセミナーに参加した際に、参加者から「どこのメーカーのAFM装置がお勧めですか?」という質問があったのです。回答として何社か挙がったメーカーの一つに、御社(オックスフォード・インストゥルメンツ)のAFMがとても良いですというお話しがあり、認識するようになりました。当時、御社AFM以外の製品(Ultim Extremeウインドウレス型EDS検出器)は既に導入しており、製品技術の高さは知っていたものの、AFMについても高い評価が得られているとは知りませんでした。

どのような材料の評価に「Jupiter XR」 AFMを使用されていますか?

【福島 氏】 弊社ではさまざまな製品を研究・開発しており、代表的なものに、PETボトルに使用されているMXナイロンや、BT樹脂をベースとした半導体パッケージ基板材料、スマホのレンズや自動車部材に使用されているポリカーボネートやそのシートなど、さまざまな場面で活用されている樹脂製品があります。また、エネルギー用途や合成樹脂原料などに使用されるメタノールや、半導体の製造に必要な薬液、食品のおいしさを守る脱酸素剤エージレスなど、幅広い分野の製品を製造しています。

樹脂サンプルを中心に、社内のさまざまなサンプルをJupiter XRで解析しており、例えば、樹脂の分散状態の可視化や弾性率マッピング、機能性樹脂の表面状態や表面処理後のSiウェハの観察などに活用しています。今後は幅広い分野にわたる材料評価への活用を見込んでいます。

導入のため、メーカーに依頼されたデモの内容と結果を教えてください。

【福島 氏】 デモ測定では、「繊維材料」、「薄膜樹脂」、「樹脂を混ぜ合わせた材料」の3サンプルを依頼しました。

まず、1つ目の「繊維材料」ですが、これまで旧式のAFMを含むさまざまな分析装置で微細構造の観察を試みていましたが、明瞭に観察することができていませんでした。最新のAFMであれば繊維材料の微細構造を観察できるのではないかと考え、デモ測定をお願いしました。そのときJupiter XRで得られた形状像では微細な凹凸が明瞭に観察できており、非常に驚きました。この結果が研究開発の促進につながりまして、改めてAFMの良さを確認できました。

次に2つ目の「薄膜樹脂」についてです。この樹脂は、製造条件によって硬さなどの物理的な特徴が異なると考えられていましたが、材料が薄いために、これまで直接の物性評価が行えておらず困っていました。複数の条件で作製したサンプルをJupiter XRのAM-FM粘弾性マッピングで測定したところ、私たちが最も硬くなると想定していたサンプルよりも別条件で作製したサンプルの方が硬くなるということが分かり、最初は素直にこの結果を受け入れることができませんでした。しかし、繰り返しの測定結果や他の分析装置による間接的な結果もJupiter XRの結果を支持することが分かり、御社装置の性能の高さを認識しました。

最後に3つ目の「樹脂を混ぜ合わせた材料」です。これまでの調査により、樹脂の分散状態の評価にAFMによる弾性率マッピングが有用であると判明したため、デモ測定をお願いしました。Jupiter XRのAM-FM粘弾性マッピングの結果、樹脂の分散状態に加えてこれまでに得られなかった樹脂ごとの弾性率の情報が同時に得られ、分析の確度がより向上しました。

これらのデモ測定を通じて新たな知見がAFMで得ることが出来たため、研究開発に必要と判断し、AFMの導入検討が優先事項となりました。

オックスフォード・インストゥルメンツ社製大型試料対応原子間力顕微鏡「Jupiter XR」(三菱ガス化学株式会社 平塚研究所)

三菱ガス化学株式会社
平塚研究所に導入された
「Jupiter XR」 AFM

なぜ「Jupiter XR」 AFMを導入したのですか。選定理由を教えてください。

【金子 氏】 デモの結果だけではなく、選定には色々な点を考慮します。最重要視していることは、装置を導入することにより、弊社の研究開発にどれだけ貢献ができるかにあると考えています。実は、最終候補に残った他社装置も弾性率等の測定が可能なことに加えて、Jupiter XRとは異なる魅力的な機能もあったので1社に絞るのは非常に悩みました。しかし、最終的に決め手となったのは、Jupiter XRの測定スピードと高い再現性でした。

私たちのチームでは、さまざまな部署から多数のサンプルが届くので、一律の条件で測定することは困難です。その都度、最適な測定条件を検討し、分析を実施する必要があるため、測定スピードが速いことは、業務効率面だけでなく、研究開発の促進という観点からも非常に重要な要素でした。また、分析チームという組織上、私たちが研究開発部門にフィードバックした結果をもとに新たな研究開発の方針が決まる場合もあるので、データの信頼性は大前提になります。

デモ測定では、他社の装置も評価させてもらいましたが、いずれも弊社所有の旧式のAFMよりも速度は向上しているものの、想定の範囲内でありました。一方、御社の装置は圧倒的なスピードで、測定開始から終了まであっという間で、もう測定が終わったのかという感覚でした。サンプルの微細構造も最も鮮明に描写されており、単にスピードが速いだけでないこともわかりました。測定結果の再現性については、デモ測定の最初と最後で同一のサンプルを測定してもらい、また、測定日が異なっても同じ結果が得られるかも確認させてもらいました。Jupiter XRは、他社のAFMと比較してサンプルごとの弾性率の序列が一致し、高い再現性を有することが確認できました。この一つとして、カンチレバーの光熱励振blueDriveの性能が効いていると伺い、性能の高さを感じました。これまで使用していた旧式AFMでは、測定の最初と最後ではデータの印象が変わってしまい、繰り返し測定することで何とかデータを出していましたが、Jupiter XRならこれまでとは全く別次元の業務が行えると考え選定しました。

三菱ガス化学株式会社 分析グループ 平塚分析チームの金子氏と福島氏

「Jupiter XR」 AFMの導入により、どのように課題が解決できたかを分析例を含めて教えてください。

【福島 氏】 樹脂の分散状態観察は、これまで電子顕微鏡を用いて行ってきており、得られる明暗の様子から分散状態を判断してきました。今回導入したJupiter XRでは、弾性率で樹脂の分散状態が可視化できるため、より確度の高い分析が行えるようになりました。弾性率の違いが分かることから、樹脂の相溶性など物性が変化している等の判断も併せて行えるため、これまでに得られなかった情報の取得にも活用できています。

分散状態の観察に要する時間も大幅に短縮できました。電子顕微鏡で行う場合には、サンプルごとに事前検討が必要な前処理操作があり、非常に時間がかかっていました。AFMでは測定したいサンプルの断面を作製するのみであるため、前処理の時間が削減できました。また、Jupiter XRはスピードが速く、観測位置の確認や測定条件の検討を素早く行えるため、条件検討に要する時間も少なくて済みます。結果として、短時間で複数個所、複数検体の観察が実現できました。

Jupiter XRで観察するサンプルのなかには、微細な凹凸が重視されるものもあり、結果の再現性について特に気を遣っています。Jupiter XRは再現性の高い情報が得られるため、微小な凹凸などのわずかな違いも捉えることができ、サンプルの情報を正確に得られるようになりました。

オックスフォード・インストゥルメンツのサポート・サービスの対応はいかがですか?

【福島 氏】 機器の操作などで疑問が生じたとき、電話やメールで質問に素早く回答いただけることに加え、測定サンプルに適したカンチレバーや測定モードの提案など、手厚いサポートを受けられるため、装置を安心して活用できています。回答も速やかにいただけるため、研究を止めることなく進めることができ、非常に助かっています。

装置にトラブルが生じた際も、原因究明と対策について真摯に向き合っていただけ、心強く感じました。そこから派生したユーザー側の要望をオックスフォード社の本社にも伝えていただくなど、改善要望に対しても素早く対応していただきました。この速度感がオックスフォード社の対応速度にも表れているものと感じました。

導入後のユーザーサポートも誠実にご対応いただけ、装置やソフトのアップデートがあった場合にも、速やかにご対応いただけています。総じて、サポートの内容、その速度ともに非常に高いと感じています。

三菱ガス化学株式会社 分析グループ 平塚分析チームの福島氏

今後のAFMについて、どのような発展や進歩を希望されますか?

【金子 氏】 これはAFMに限った話ではないですが、自動化、省力化を進めてほしいです。素材開発競争は熾烈を極めており、昨今では従来よりもさらなる迅速化や効率化が求められています。DXの登場により、この流れは一層加速すると考えられます。ワークライフバランスの最適化という流れもあり、昔のように、遅くまで残業して作業を行うのはナンセンスだと思っています。

会議や打ち合わせ前、あるいは帰宅直前に測定を仕掛け、会議終了後や翌日に解析を行えるようなサイクルが効率的だと思っています。日中は、測定結果の解析や結果の考察など、我々にしかできないことに注力できるようになると嬉しいです。

最新のAFMはさまざまな測定ができるようになっているものの、測定結果の信頼性確認や、異なる視点から素材の特長を把握することを目的として、他の分析装置と組み合わせるケースも依然としてあります。SEMなど他の装置と治具や観察位置を共有化できると、効率的な測定ができるので嬉しいです。

インタビューご回答者のプロフィール(敬称略)

金子 直樹(かねこ なおき)

三菱ガス化学株式会社
知的基盤センター 分析グループ 平塚分析チーム

2012年 三菱ガス化学株式会社 入社
これまでNMR、質量分析装置、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いた分析業務に従事。現在に至る。


福島 卓弥(ふくしま たくや)

三菱ガス化学株式会社
知的基盤センター 分析グループ 平塚分析チーム

2019年 三菱ガス化学株式会社 入社
これまで電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いた分析業務に従事。現在に至る。

(取材:2024年3月)
※記事の内容は取材時の情報です。

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