Aug. 8, 2022

WITec Paper Award 2022の受賞者が決定

米国、ドイツ、中国の研究者に本賞が贈られます。

WITec Paper Award 2022 では、セメント化学、薬学、メタンハイドレート化学の分野で活躍した研究成果を高く評価し、米国、ドイツ、中国の研究者を表彰します。毎年、WITec Paper Awardでは、WITec(ビーテック)の顕微鏡で取得したデータが含まれた科学論文3編を取り上げています。今年の応募総数は100件以上となりました。WITecは受賞者を賞賛し、また参加者全員に感謝申し上げます。

  • 金賞: Hyun-Chae Loh, Hee-Jeong Kim, Franz-Josef Ulm, Admir Masic (2021) Time-space-resolved chemical deconvolution of cementitious colloidal systems using Raman spectroscopy. Langmuir 37: 7019-7031. DOI: 10.1021/acs.langmuir.1c00609
  • 銀賞: Nathalie Jung, Till Moreth, Ernst H. K. Stelzer, Francesco Pampaloni, Maike Windbergs (2021) Non-invasive analysis of pancreas organoids in synthetic hydrogels defines material-cell interactions and luminal composition. Biomaterials Science 9: 5415-5426. DOI: 10.1039/D1BM00597A
  • 銅賞: Xin Huang, Le Zhang, Wenjiu Cai, Jiayuan He, Hailong Lu (2022) Study on the characteristic spectral bands of water molecule and hydrogen bond of methane hydrate. Chemical Engineering Science 248: 117117 (available online 2021). DOI: 10.1016/j.ces.2021.117117

過去のWITec Paper Award受賞者の一覧は、Paper Award 公式サイトをご覧ください。



金賞受賞論文:セメントの水和反応速度に関する研究

コンクリートは、その耐久性と強度から建築に広く使われています。セメントと水との化学反応により形成され、その硬化過程においても生コンクリートは成型可能です。硬化時間を含めた材料特性を最適化するためには、セメントの水和反応を十分に理解することが必要となっています。Hyun-Chae Loh博士は、米国ケンブリッジにあるマサチューセッツ工科大学土木環境工学科のHee-Jeong Kim博士、 Franz-Josef Ulm教授、Admir Masic教授とともに行った、一般的に使用されるポルトランドセメントの初期水和反応について研究でPaper Award金賞を受賞しています。この研究グループは水中ラマン顕微鏡を用いて、セメントが固化する過程でケイ酸塩相が水和生成物に変化する様子のその場観察に成功しました。そしてラマンイメージの2点相関関数を用いることで、反応速度を定量化しています。この時空間分析により、セメント硬化のメカニズムが明らかになり、パーコレーションプロセスという理論を支持するものになりました。「私たちのアプローチは、セメント化学の別の側面にも応用できます」とAdmir Masic教授が述べています。「例えば、セメント硬化における硫酸塩相、アルミン酸塩相、炭酸塩相の役割については、今後発表する予定です」。

WITec Paper Award 金賞の賞状を受け取るマサチューセッツ州ケンブリッジにあるMITのHyun-Chae Loh博士(右)とオックスフォード・インストゥルメンツのMichael C. Liptonエリアセールスマネージャー(左)。
WITec Paper Award 金賞の賞状を受け取るマサチューセッツ州ケンブリッジにあるMITのHyun-Chae Loh博士(右)とオックスフォード・インストゥルメンツのMichael C. Liptonエリアセールスマネージャー(左)。

銀賞受賞論文:オルガノイドの形成に関する研究

基礎研究から個別化医療まで、ヒトの病気を理解し治療法を開発するためには、明確なモデルシステムが極めて重要となっています。そういった状況で、オルガノイドと呼ばれる3次元微細構造体は、臓器に似た性質を持つことから、大きな可能性を持つことが知られています。この3次元細胞培養は、主に、人工マトリックス(オルガノイド形成の足場として用いられる)であるハイドロゲルの中で行われました。Nathalie Jung博士とTill (Moreth) Seeberger博士は、異なる環境におけるオルガノイド形成に対する非侵襲的な評価方法としてのラマンイメージングを論文発表し、Paper Award 2022銀賞を受賞しました。この研究は、ドイツ、フランクフルトのゲーテ大学薬学技術研究所およびブッフマン分子生命科学研究所のErnst H. K. Stelzer教授、Francesco Pampaloni博士、Maike Windbergs教授と共に行われました。異なるハイドロゲル内において膵臓オルガノイドを培養し、ラマン顕微鏡を用いることにより、その成長速度、組成、マトリックスとの相互作用が明らかにしました。Nathalie Jung教授は、「ラマン顕微鏡の利点は、時間をかけ、さらに破壊的とも言えるサンプル調製をしなくても、培養細胞のそのままの姿を調べることができることです」と説明しています。この手法により、著者らは、さまざまなハイドロゲルにおけるオルガノイド形成を比較し、最も期待できる方法を選択することができました。この技術は、オルガノイド内部の化学組成の分析、化合物の分泌のモニタリング、生細胞への薬物の影響などにも利用することができます。

Paper Award銀賞の賞状を正式に手渡しました。左から右へ:WITec セールスマネージャー Stefan Gomes da Costa、ドイツ・フランクフルトのゲーテ大学からNathalie Jung博士、Maike Windbergs教授、Francesco Pampaloni博士。
Paper Award銀賞の賞状を正式に手渡しました。左から右へ:WITec セールスマネージャー Stefan Gomes da Costa、ドイツ・フランクフルトのゲーテ大学からNathalie Jung博士、Maike Windbergs教授、Francesco Pampaloni博士。

銅賞受賞論文:メタンハイドレート形成に関する研究

メタンハイドレートは、水の結晶構造の中にメタン分子が閉じ込められた氷状の固体である。天然に存在するメタンハイドレート貯留層は潜在的なエネルギー源として知られていますが、大気中に放出されると地球温暖化の原因となる可能性があります。Xin Huang氏は、共同研究者のLe Zhang氏、Wenjiu Cai氏、Jiayuan He氏、Hailong Lu氏と行ったメタンハイドレート生成時のラマンスペクトル変化の詳細な特性評価と解釈により、Poster Award 2022銅賞を受賞しています。この研究は、中国・北京の2つの機関、SINOPEC石油探査生産研究所と北京大学ガスハイドレート国際センターとの共同研究によるものです。この研究では、条件設定されたメタンハイドレート生成反応器内でラマンスペクトルを測定しました。そして水分子のスペクトルの特徴に着目し、ハイドレート形成の指標となるいくつかのスペクトルを同定し、その解釈を行いました。特に、相転移が水素結合の振動を表すスペクトルの急激な変化で示されたことは注目すべきことだと評価しています。また、水素-酸素結合の伸縮振動の変化も定量的に解析されました。著者らは、この手法が「実験室での研究や現場でのハイドレート探査に広く活用できる」と確信しています。

WITec Paper Award銅賞を受賞した中国、北京のSINOPEC石油探査生産研究所のXin Huang氏(中央)と、共同研究者のLe Zhang氏(左)、Jiayuan He氏(右)。
WITec Paper Award銅賞を受賞した中国、北京のSINOPEC石油探査生産研究所のXin Huang氏(中央)と、共同研究者のLe Zhang氏(左)、Jiayuan He氏(右)。

WITec Paper Award 2023に参加希望の方へ

WITecは、産業界および学術界のあらゆる応用分野の研究者を対象に、Paper Award 2023 コンテストへの参加を呼びかけています。論文は、2022年に査読付き雑誌に掲載されたもの(印刷物またはオンライン)で、WITecの装置で得られた結果が含まれているものが対象となります。2023年1月31日までにPDFで papers@WITec.de にお送りください。多くの研究者が発表した素晴らしい論文を、WITecの審査員が心よりお待ちしております。

WITec(ビーテック)について

WITecは、3D ラマンイメージングと相関顕微鏡のパイオニアであり、スピード、感度、分解能に妥協のない製品ラインナップで、業界をリードし続けています。ラマン顕微鏡、AFM顕微鏡、SNOM顕微鏡、およびビーテックが開発したRaman-SEM(RISE)装置は、拡張可能なモジュール式のハードウェアおよびソフトウェアにより、化学および構造特性評価において特定の課題に合わせてカスタマイズすることが可能となっています。研究、開発、生産はドイツ・ウルム市のビーテック本社(WITec GmbH)で行われており、ビーテック製品の販売・サポートネットワークは世界のあらゆる地域で確立されています。2021年9月、ビーテックはオックスフォード・インストゥルメンツ・グループの一員となり、ラマン顕微鏡の技術的リーダーシップをその幅広い事業ポートフォリオに取り込みました。

本プレスリリースに関するお問い合わせ先

WITec GmbH
Lise-Meitner-Str. 6, 89081 Ulm, Germany
Phone: +49 (0) 731 140 70 0
E-mail: press@WITec.de
https://Raman.oxinst.com

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